コラム

2017.02.17

茂木健一郎×林要 特別対談(下)
何も考えずにランニングすれば、「脳」が冴えわたる!

自身のランニング体験について綴った『走り方で脳が変わる!』を出版した茂木健一郎さんと、感情認識ロボットPepperの元開発リーダーで、現在はGROOVE Xという会社を立ち上げて新たなロボットを作っている林要さんの対談。最終回は、『走り方で脳が変わる!』で紹介されている、脳が何も考えていないときに働く回路「デフォルト・モード・ネットワーク」などの話から、無意識を鍛えるにはどうすればいいかという話題へ。そして、いまだ謎に包まれている、林さんが現在開発しているロボットの実態に、茂木さんが迫る。(構成:崎谷実穂、写真:榊智朗)

茂木健一郎×林要 特別対談(下) 何も考えずにランニングすれば、「脳」が冴えわたる!

頭の中のイメージで、自分の体は決まる

走り方で脳が変わる!

走り方で脳が変わる!

著者:茂木 健一郎
出版社:講談社
定価:1,404円

茂木 林さんはランニングする人ですか?

林 『走り方で脳が変わる!』を読んでから、走ろうと思ってはいるんですけど時間がなくて……。トヨタに勤めていた時は、社内でも走っている人がたくさんいました。この本にあるように、走っている人のほうがクリエイティビティを発揮しているかどうかはよくわかりませんでしたが(笑)。ただ、村上春樹さんがランニングをされるというのは、とても納得しました。

茂木 どういうところからですか?

林 脳を使った時は、体も動かさないとバランスがとれなくて、夜眠れないんですよね。本にもあるように体を動かすことで頭の疲れというか、ストレスが軽減される感じがあるんです。Pepperの開発責任者だった時はプレッシャーがすごかったので、頻繁に筋力トレーニングをしていました。あと、茂木さんが40歳になったのをきっかけに、つくばマラソンに挑戦されたというのはすごく共感します。私も43歳になって、そろそろ運動を定期的にやらないとまずいなと思ってるんです。

茂木 40歳になったときに、グライダーが滑空するみたいに、ここからはもう体力が落ちるばかりだと思ったんですよ。だから、その落ちる角度を少しでも緩やかにしないと、と思ってフルマラソンに挑戦したんです。あと、最近友人が体を鍛え始めたらしいのですが、そのきっかけがおもしろくて(笑)。服を脱いで鏡を見たら、自分の体がおじいちゃんみたいだったんだそうです。

林 わあ、それはつらい(笑)。『走り方で脳が変わる!』にもありましたが、脳内に自分の体のモデルってありますよね。それに合わせて、動きの俊敏さなどが決まってくる。自分の頭の中のモデルに、外側を合わせようとするから、自分の体のイメージが「おじいちゃん」になってしまったら、そのままずるずる衰えてしまいそう。

茂木 嫌ですよね、自分のイメージと違う体になっていたら。だから、年をとっても運動は絶対した方がいい。

無意識を鍛えることがひらめきにつながる

林 ところで、『ゼロイチ』には、茂木さんの『ひらめき脳』の一節を引用させていただいています。無意識の領域では、自分にとって予想がつかないことがしばしば起こる。無意識の思考がスパークしたときに、ひらめきが訪れるのだと思います。『走り方で脳が変わる!』には、あえて何も考えずに走ることで「デフォルト・モード・ネットワーク」という回路が働いて、ひらめきやすくなるということを書かれていましたね。

茂木 そうなんです。すごくおもしろいですよ。ぼーっと走っていると、無意識の領域から「あれはこうなってたのか!」「あ、あのメール返さなきゃ」「あの人に連絡をとろう」……と、ぽこぽこアジェンダが上がってくるんです。

林 私は無意識を鍛えるということにすごく関心があって、無意識へのインプットは2つの方向があると考えています。ひとつは意識からのインプット。これは本を読んだりネットを見たりして情報を得るという、通常のインプットですね。もう一つは、体験からのインプット。これは体を動かすなど五感を活用することでインプットされるものです。今日の取材場所である明治神宮は、そういう意味でテーマパークだと思うんですよ。無意識を刺激するように設計されていて、歩くだけで楽しかったり心地よかったりする。

茂木 僕も明治神宮は大好きですね。月に1回は来ています。木々のざわめきや砂利の感触、澄んだ空気など、たしかに無意識を刺激される要素が多いところですね。

林 この話は、今GROOVE Xで作っているロボットにも関係しているんです。私は、コミュニケーションは意識のレイヤーと無意識のレイヤーがあると考えていて、無意識のレイヤーに特化したロボットを作ろうとしています。つまり、ロボットと言語的なコミュニケーションをするのではなく、もっと感覚的なコミュニケーションを追求したい。現状の人工知能では、意識をつくりだすことはできませんからね。

茂木 ふむ。たしかに、人工知能で人間の脳の代替するという考え方が喧伝されていますが、僕は、ロボット、AIの技術開発において、人間の脳はあまり意識しなくてもいいんじゃないかと思っているんです。ディープラーニングは人間の脳神経回路を真似したニューラルネットワークを何層にも重ねたもので、パターン学習と強化学習はたしかに脳の学習則と同じだけれど、脳の働きが包括的に再現できているわけではない。基本的には無関係として考えたほうが、本質的なイノベーションを起こせると考えています。AIの用途としてよく自動運転があがりますが、あれも人間の運転と同じである必要はまったくない。むしろ、人間に寄せると事故が起こりやすいでしょう。

林 そう思います。将来的には、人間の運転が禁止されて、自動運転に統一されるのではないでしょうか。

茂木 そうですよね。人間の運転と自動運転が混在している状態が、一番事故が起こりやすいと考えられます。

人のコストを下げるロボット、人のパフォーマンスを上げるロボット

茂木 それにしても、林さんの作っているロボット見てみたいですね。

林 今はまだ内緒です(笑)。世界中どこにも、かつてなかったロボットです。まさにゼロイチです。たぶん、このロボットを見た人はすごくプロダクトアウトな製品だと思うはずです。でもじつは、マーケットインがもとになってるんです。

私は、プロダクトアウトとマーケットイン、どちらが正しいのかずっと考えていたのですが、それは交互にやるべきだという結論にいたりました。プロダクトアウトの製品を市場に投げると、当たることもあれば、まったく売れないこともある。でもどちらにせよ、社会の反応が波紋のように広がるんです。その波紋を丁寧に採集して、それをもとに次のバージョンを作ることで、マーケットインになる。

茂木 なるほど。では、Pepperをつくったときの社会の波紋を参考に考えたロボットということになるのかな?う~ん、どんなロボットなのかまったくわからないな(笑)。もうちょっと、ヒントをもらえませんか?

林 そうですね……私はロボットには2つの種類があると考えています。一つは能力が重視される、作業などのコストを下げるためのロボット。はやい話が洗濯機みたいなものです。もう一つは、存在が重視される、人のパフォーマンスを上げるロボットです。

茂木 日本の強みは、おそらく後者にありますよね。コストを下げる方は、アメリカにもう勝てないと思います。でも、後者のキラーアプリはまだ出ていない。そちらなら勝てるかもしれない。

林 さすが茂木さん、私たちが作っているのは人のパフォーマンスを上げる方なんです。

茂木 それを聞いて思い出したのは、20年近く前にケンブリッジ大学のバーバラ・ウィルソン博士から聞いた、「エラーレスラーニング(誤りなし学習)」の話です。人は通常、試行錯誤で学んでいくのですが、認知症や記憶障害の患者さんなどは試行錯誤で学べなくなる。なぜかというと、間違えたことは記憶に残るけれど、訂正されたことは記憶に残らないから。何回やっても正しいことを答えられないんです。そういう患者さんは、行動の「キュー」を出す前頭葉の働きが衰えてるから、キュー出しを人為的にやってあげると、QOLが上がるという研究をしていたんですね。

林 興味深いですね。

茂木 しかもおもしろいことに、このサポートは人間よりもコンピュータのほうがいいんですよ。なぜなら感情がないから。例えば認知症の患者さんが30分前にごはんを食べたことを忘れて「ごはんまだ?」と聞くと、相手はがっかりしてしまいますよね。責めなかったとしても、そのがっかりを見るだけで患者さんにとってはストレスなんです。だから、人間じゃなくてロボットのほうが、事実をただ伝えてガイダンスすることができる。いわば、脳の認知システムにおいて、体にとっての車椅子のような働きをしてあげられるんです。そうすることで、患者さんの生活がよりスムーズになります。

林 脳にとっての車椅子……!すばらしい言葉ですね。そう、僕らはそのサポートが、健常者にとっても有用だと考えていて、そういうことができるロボットを作りたいと考えているんです。

茂木 それはおもしろいですね。お披露目される日を楽しみにしています。

林 ありがとうございます。がんばります!


出典:ダイヤモンド社 書籍オンライン Copyright © 2016 DIAMOND,Inc. All rights reserved.

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著者紹介

  • 茂木 健一郎

    茂木 健一郎

    1962年、東京都に生まれる。脳科学者、理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学の研究員を経て現在はソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。「クオリア」=感覚の持つ質感をキーワードに「脳と心の関係」を研究している。2005年に小林秀雄賞、2009年に桑原武夫学芸賞を受賞。著書に『走り方で脳が変わる』(講談社)、『脳とクオリア』(日経サイエンス)、『心を生み出す脳のシステム』(NHK出版)、『ひらめき脳』(新潮新書)ほか。2015年刊では『結果を出せる人になる!「すぐやる脳」のつくり方』(学研)、『頭は「本の読み方」で磨かれる』(三笠書房)などがある

  • 林 要

    林 要

    1973年愛知県生まれ。東京都立科学技術大学(現・首都大学東京)に進学し、航空部で「ものづくり」と「空を飛ぶこと」に魅せられる。当時、躍進めざましいソフトバンクの採用試験を受けるも不採用。東京都立科学技術大学大学院修士課程修了後トヨタに入社し、同社初のスーパーカー「レクサスLFA」の開発プロジェクトを経て、トヨタF1の開発スタッフに抜擢され渡欧。帰国後、トヨタ本社で量販車開発のマネジメントを担当する。そのころスタートした孫正義氏の後継者育成機関である「ソフトバンクアカデミア」に参加。孫氏の「人と心を通わせる人型ロボットを普及させる」という強い信念に共感。2012年、人型ロボットの市販化というゼロイチに挑戦すべくソフトバンクに入社、開発リーダーとして活躍。開発したPepperは、現在のロボットブームの発端となった。同年9月、独立のためにソフトバンクを退社。同年11月にロボット・ベンチャー「GROOVE X」を設立。著書に『ゼロイチ』(ダイヤモンド社)

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