コラム

2017.02.03

茂木健一郎×林要 特別対談(上)
これから活躍するのは「おっちょこちょい」である理由

自身のランニング体験について綴った『走り方で脳が変わる!』を出版した茂木健一郎さんと、感情認識ロボットPepperの元開発リーダーで、現在はGROOVE Xという会社を立ち上げて新たなロボットを作っている林要さんの対談が実現。第1回は林さんの著書『ゼロイチ』をもとに、日本企業でイノベーションを起こすにはどうすればいいのか、を探る。(構成:崎谷実穂、写真:榊智朗)

茂木健一郎×林要 特別対談(上) これから活躍するのは「おっちょこちょい」である理由

ステルスで開発して、いきなり実物を披露する時代

ゼロイチ トヨタとソフトバンクで鍛えた「0」から「1」を生み出す思考法

ゼロイチ トヨタとソフトバンクで鍛えた「0」から「1」を生み出す思考法

著者:林 要
出版社:ダイヤモンド社
定価:1,620円

茂木健一郎さん(以下、茂木) 『ゼロイチ』、おもしろく読ませていただきました。この本は、組織内でイノベーションをどう起こすかということに軸をおいていますね。

林要さん(以下、林) はい。私自身が、トヨタやソフトバンクで働いていたときに、大企業の中でイノベーションを起こすのは組織構造的にむずかしいと痛感していました。だけど、なんとか実現したいと試行錯誤する中で、その困難を突破するにはどうすればいいか、も見えてきた。ひとりのサラリーマンが、組織内でイノベーティブな仕事を実現するうえでのコツをまとめたのが『ゼロイチ』です。ゼロからイチをつくり出すのは起業家が多いと思いますが、この本は組織人に向けて書いています。

茂木 なるほど。イノベーションをテーマにした本はたくさんありますが、読者の属性としては、起業家よりも会社員の方が多いでしょうから、読者の皆さんにとって「ため」になる内容が多いと思いました。僕は大阪大学大学院工学研究科で長らく授業を担当していて、そうしたところの学生はいまだに大企業志向が強いんですよね。慎重で堅実なタイプが多い。そんな彼らに読んでほしいと思う内容でした。

 ところで、自分で会社を立ち上げる人って、慎重で堅実というよりも、もう少しおっちょこちょいじゃないですか(笑)?

林 まさに!私も『ゼロイチ』に「『おっちょこちょい』は美徳である」という章を設けたくらい、おっちょこちょいは大事な要素だと思っているんです。

茂木 林さんはおっちょこちょいですか?

林 この流れで言うと自画自賛みたいですけど、おっちょこちょいですね(笑)。「こうあるべきだ」と思ったら、深く考えずにぱっとやってしまう。だから、大小無数の失敗をして、慎重で堅実な人々に助けられたリ、怒られたりしてきました。でも、結果的にたくさんの失敗経験を積んで、普通のサラリーマンよりもたくさんの学びを得られたという実感があります。

茂木 わかるなぁ。全力でやってみて失敗するって、学びが多いんですよね。ところが、有名大学の大学院に進学するようなエリートは、おっちょこちょいタイプがほとんどいない。もっとみんなおっちょこちょいでいいと思うんだけどな(笑)。

 ところで、『ゼロイチ』には、Pepper開発時のお話も出てきますが、Pepperについて僕が印象的だったのは、記者会見でいきなり実物が壇上に現れたこと。それまで、ソフトバンクがロボット事業をやっているなんて、発表されていなかったですよね?

林 じつは、前日の夜に日経新聞にすっぱ抜かれてしまって、プロジェクトメンバーで「うわー、やられた!」って言い合っていたんです(笑)。でも、それまではステルスでプロジェクトを進めていました。

茂木 それはすごくよかったと思います。スティーブ・ジョブズがマッキントッシュやiPhoneを開発していた時も、ずっとステルスでやっていて、出荷直前で発表した。すごいインパクトだったですよね。このやり方を、日本企業ももっと学ぶべきだと思うんですよね。例えば、アメリカの青年が自動運転を実現した動画をいきなりアップして、話題になったでしょう?

林 ああ、iPhoneのSIMロック解除や、プレイステーション3のハッキングなどをやってのけた、有名なハッカーですよね。

Meet the 26-Year-Old Hacker Who Built a Self-Driving Car... in His Garage

茂木 今彼は会社を立ち上げて、自動運転車を開発してるそうだけど、今はもう「実現して、デモを見せる」ところから始める時代なんだと思います。「これから自動運転の開発に挑みます」みたいなCMを打つよりも効果的なんじゃないかな。

林 う~ん、どうでしょう。ステルスは自信があるからこそ、できることですよね。これができたら、たしかにインパクトは強いですよね。だから、私が設立した「GROOVE X」ではゼロイチのロボットをつくっていますが、発売直前まで極秘で進めたいと思っています。

茂木 おお、それは楽しみですね。

林 はい。ご期待ください。

大企業のイノベーションは、ほとんどがトップダウン

茂木 そもそもPepperの開発は、どういうふうに始まったんですか?

林 あれは、ソフトバンクグループの孫社長が「人に愛されるロボットを作りたい」とおっしゃったところから始まったんです。私はもともとトヨタの社員で、ソフトバンクアカデミアという孫社長の後継者育成機関に外部生として参加していたんです。そこから、「うちに来てロボットを作らないか」と言っていただき、ソフトバンクに転職しました。

茂木 Pepperのプロジェクトって、最初から予算がどーんとついたんですか?

林 いや、最初はそんなに大きなプロジェクトではありませんでした(笑)。定期的に、「こういうことができるようになりました」とデモンストレーションをして、成果を認めてもらうことで、少しずつ人員や予算が増えていったという感じですね。今やっているロボット・ベンチャーの資金調達と一緒ですよ。投資家に作ったものを見せて、「いいね」と思われたらファンドレイジングできる。

茂木 僕は予算の付け方って、企業内でイノベーションが起きるかどうかに大きく関わっていると思うんですよ。企業じゃなくて大学の例だけど、僕が見ている限りけっこう“悪平等”なんです。「グローバル化」とかそういった名目に対して、一律にお金がつく。そうじゃなくて、「この研究すごいから100億出しましょう」みたいなメリハリがないと、ぐんと研究が進むことはありえない。事業もそうですよね。それで、イノベーションのスピードが落ちてるんじゃないかと思うんです。

林 たしかに、そうかもしれません。大企業のイノベーションで成功するパターンって、ほとんどがトップダウンなんです。それは、予算も含めて思い切った采配ができるからだと思います。そうなると創業社長など、強烈なリーダーシップをもった経営者がいる企業でしか、イノベーションは起こりづらい。その点、孫さんは最強の経営者だと思います。

茂木 現場からボトムアップでのイノベーションは難しいということですね。

 でも、Googleなどを見ていても、ニュースになるような革新的な成果って、買収した企業のものばかりですよね。歩行ロボットのボストン・ダイナミクス(Atlas, The Next Generation)とか、トップ棋士に勝利したアルファ碁のディープマインド社とか。社内の一事業部がイノベーションを起こした、みたいな話はあまり聞かない。

林 そうなんですよね。私は、かならずしも大企業がイノベーションを無理にやる必要はないと思っています。大企業というのはそもそも、組織構造の面から見てイノベーションを起こしづらいからです。ある程度企業規模が大きくなると、たくさんの人を雇用して、管理を強化しないといけない。

 それに、成功するかどうかわからないゼロイチの事業に賭けるよりも、効率的に今ある事業で利益を出していくほうが重要になっていきます。また、社内で事業を立ち上げる時には、最初に投資した金額を回収できるような事業計画を立てないといけません。でも、スタートアップで事業をやるときは投資してもらったお金を商品・サービスの売上で回収する必要はない。企業自体の時価総額が上がれば、それでいいわけですから。

茂木 大企業とスタートアップのイノベーションは、根本的に違うんですね。

林 だから、イノベーションはスタートアップで起こして、それを大企業が買収して育てるというのはきれいな流れだと思います。

「よそ者」はイノベーションを起こしやすい

茂木 日本ではスタートアップを大企業が買収するということも、そんなにないですよね。これって、日本の雇用の正規社員と非正規社員の問題にも通じると思うんです。自社開発主義というか、正社員は仲間だけど、非正規社員は仲間じゃない、みたいな意識があるような気がして。プロパー以外の優秀な人をうまく取り入れていかないと、イノベーションは起きないでしょう。林さんは、ソフトバンクではどんな雇用形態だったんですか?

林 正社員です。

茂木 何年いらっしゃったんですか?

林 4年くらいですね。

茂木 4年しかいない正社員、というのもおもしろい(笑)。

林 最初はまわりに「どこからきた誰なの?」と思われていたでしょうね(笑)。

茂木 おそらく、林さんが外から来た人だというのは、Pepperプロジェクト成功の要因の一つだと思いますよ。

林 そう考えたことはありませんでしたが、たしかに社内の人材でやろうとするとうまくいかなかったかもしれません。というのも、社内でプロジェクトの責任者になるくらいの人は、それまでにソフトバンク内ですごく実績を積んできた人なんです。失敗したら、これまで積み上げたものを失うことになるかもしれない。そう考えたらいろいろな人の意見を聞きすぎて、尖ったものは作れなかったかもしれません。

茂木 あんなユニークなロボットはできなかったでしょう。

林 もっとすごいものをつくったかもしれませんが(笑)。でも、Pepperの開発って、本当に答えのないことばかりだったんです。だから、「ここじゃないかな」と当たりをつけて、やってみるという方法をとるしかなかった。私は、失敗したら責任取ればいいやと思っていましたけど、そういう賭けのようなやり方は、社内でコツコツやってきた人には難しいとは思います。

 それで、先ほどの、大企業はスタートアップを買収したほうがいいんじゃないか、という話に戻りたいんですが、アメリカの西海岸の大企業がスタートアップを買収して育てられるのは、ひとつ重要な条件があると思うんです。そもそも社内にスタートアップ出身の人がいる。これがないと、うまくいかない。

茂木 ああ、経験した人がいるんだ。

林 スタートアップの多くは、買収された時は社内の仕組みなどはボロボロだと思います。買われた先の社員の方々が、そのボロボロさに敬意を払えるかどうか。それが、大企業がスタートアップを買収してうまく育てられるかどうかのポイントだと思うんです。だから、スタートアップ経験者が社内にいるか、あるいは、せめて社内でゼロイチ・プロジェクトを経験してきた人がいなければならない。

茂木 なるほど。買収したスタートアップに敬意を払わず、なんでもどんどん大企業のやり方を押し付けたらうまくいかないでしょうね。そのためには、スタートアップがどのようなものかを実体験としてわかっている人が、大企業のなかにいなければならない。新卒で入社した人が大半、という組織ではなかなかスタートアップとうまく融合していけないかもしれませんね。そういう意味では、もっと雇用の流動性を高めることも、日本でイノベーションを生み出すうえで重要だということになりますね。


出典:ダイヤモンド社 書籍オンライン Copyright © 2016 DIAMOND,Inc. All rights reserved.

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著者紹介

  • 茂木 健一郎

    茂木 健一郎

    1962年、東京都に生まれる。脳科学者、理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学の研究員を経て現在はソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。「クオリア」=感覚の持つ質感をキーワードに「脳と心の関係」を研究している。2005年に小林秀雄賞、2009年に桑原武夫学芸賞を受賞。著書に『走り方で脳が変わる』(講談社)、『脳とクオリア』(日経サイエンス)、『心を生み出す脳のシステム』(NHK出版)、『ひらめき脳』(新潮新書)ほか。2015年刊では『結果を出せる人になる!「すぐやる脳」のつくり方』(学研)、『頭は「本の読み方」で磨かれる』(三笠書房)などがある

  • 林 要

    林 要

    1973年愛知県生まれ。東京都立科学技術大学(現・首都大学東京)に進学し、航空部で「ものづくり」と「空を飛ぶこと」に魅せられる。当時、躍進めざましいソフトバンクの採用試験を受けるも不採用。東京都立科学技術大学大学院修士課程修了後トヨタに入社し、同社初のスーパーカー「レクサスLFA」の開発プロジェクトを経て、トヨタF1の開発スタッフに抜擢され渡欧。帰国後、トヨタ本社で量販車開発のマネジメントを担当する。そのころスタートした孫正義氏の後継者育成機関である「ソフトバンクアカデミア」に参加。孫氏の「人と心を通わせる人型ロボットを普及させる」という強い信念に共感。2012年、人型ロボットの市販化というゼロイチに挑戦すべくソフトバンクに入社、開発リーダーとして活躍。開発したPepperは、現在のロボットブームの発端となった。同年9月、独立のためにソフトバンクを退社。同年11月にロボット・ベンチャー「GROOVE X」を設立。著書に『ゼロイチ』(ダイヤモンド社)

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