コラム

2017.11.02

「努力」より「○○」こそが、最高のリーダーシップ育成法である。

「優れたリーダーはみな小心者である」。この言葉を目にして、「そんなわけがないだろう」と思う人も多いだろう。しかし、この言葉を、世界No.1シェアを誇る、日本を代表するグローバル企業である(株)ブリヂストンのCEOとして、14万人を率いた人物が口にしたとすればどうだろう? ブリヂストン元CEOとして大きな実績を残した荒川詔四氏が執筆した『優れたリーダーはみな小心者である。』(ダイヤモンド社)が9月22日に発売される。本連載では、本書から抜粋しながら、世界を舞台に活躍した荒川氏の超実践的「リーダー論」を紹介する。

※こちらの記事は『ダイヤモンド社 書籍オンライン 』の提供コンテンツです。元記事はこちら。

「苦行」をやり抜いても、リーダーシップは磨かれない

「面白い」ことをする――。
私は、これこそリーダーシップを育てる最善の方法だと考えています。

「リーダーシップが、そんな甘っちょろいことで育つものか」。そう思われる方もいらっしゃるかもしれません。たしかに、リーダーシップというものは、さまざまな逆境を経験するなかで鍛えられるものです。苦労せずして、優れたリーダーシップを備えることはないと断言できます。

ただし、それは単なる苦行であってはなりません。いえ、「苦行=つらさに耐えて仕事をする」というスタンスでは、むしろリーダーシップを殺してしまうことになってしまうでしょう。なぜなら、そこには、リーダーシップの原点である「主体性」がかけらもないからです。

では、主体性はいつ発揮されるのか? 決まっています。心の底から「面白い」と思えることをするときです。誰だってそうです。「面白い」ことをするのですから、誰かに指図されるまでもなく率先してチャレンジする。それこそが主体性なのです。

もちろん、「面白い」ことを実現する過程では、カベにぶつかり、痛い思いもするでしょう。ときには挫折することもあるはずです。しかし、この苦しみは、決して苦行ではありません。つらさに耐えて仕事をしているのではなく、面白いことを実現するために仕事をしているからです。そして、この逆境を乗り越えて、モノゴトを実現する過程でこそ、真のリーダーシップは鍛えられるのです。

沈滞するチームの士気を一気に上げた方法とは?

では、仕事の面白さとは何か?
私が、はじめてそれを知ったのは入社3年目。タイ・ブリヂストンの販売担当になったときのことです。当時、販売現場では、ある問題が持ち上がっていました。事業立ち上げの時期は、取引先がすべて新規顧客であるがゆえによく起こることですが、販売売掛金の回収が滞っていたのです。そこで、上司から、タイ人営業マンをリードしながら不良債権の回収をするように命じられたのです。

私にとっては、はじめての営業経験でしたから、右も左もわからない。とにかく、得意先に足しげく通って支払いを求めるしかありません。しかし、相手も背に腹は変えられませんから、ふにゃふにゃとかわしてくる。新米営業マンには、なかなか手ごわい仕事でした。

しかも、タイは「マイペンライ」の国です。
「マイペンライ」とは、タイ人がよく口にする「大丈夫だ。気にするな」といった意味の言葉。使う場面が面白い。たとえば、飲食店で店員が誤って、スープを私のズボンにこぼしたとします。日本であれば、「大丈夫だ。気にするな」という言葉を使うのは私のはず。しかし、タイでは、こぼした本人が「マイペンライ」と言いながら微笑むのです。当初、これには閉口しましたが、慣れてくるとこれが心地いい。おおらかな気持ちになるからです。これは、タイ文化の愛すべき部分だと思っています。

ところが、不良債権回収でも「マイペンライ」が顔を出すからやりにくい。「マイペンライでは困る。ちゃんと払ってくれ」と何度も通いつめ、「ちゃんと払ってくれなかったら、取引を続けられない」と、若干の脅しをかけながら駆け引きを続ける毎日。想像以上に難航しましたが、コツさえつかめればなんとかなる。しばらく経つと、着実に回収が進むようになりました。

ところが、正直なところ面白い仕事とは言いがたい。
「ちゃんと払ってくれ」と言うだけで、何かを生み出しているわけではないからです。それは、私だけではありませんでした。タイ人営業マンも、どうも士気が上がらない。職場の空気が沈滞気味だったのです。

このままではつまらない。もっと前向きな仕事がしたい……。そう思った私は、「不良債権の回収だけではなく、新規顧客開拓もやらないか?」とメンバーに相談。みんなで「ターゲット顧客リスト」や「攻略作戦」をまとめ上げて、上司に提言。当初、上司は「回収だけでもたいへんなのに、本当にできるのか?」と驚いていましたが、会社にとってもプラスをもたらす提言だから却下する理由もない。「前向きでよろしい」とすぐにOKを出してくれたのです。

これで、私のチームは一気に活気づきました。仕事量が2~3倍に膨れ上がりましたから、めちゃくちゃに忙しくなりましたが、これは全然苦にならない。当時のタイは「車社会」への移行期でしたから、掘れば需要はいくらでもある。ガンガン結果が出るから、面白くてたまらなくなったものです。

この世の中に「完成された仕事」はない

このとき、私は知りました。与えられた仕事をこなすだけでは面白くない。自ら見出した課題にチャレンジするからこそ、仕事は面白くなるのだ、と。

しかも、できることなら「前向き」なことがいい。何かを生み出すこと、新しい価値をつくり出すこと、想像するだけでもワクワクするようなこと……。そんな仕事には仲間も共感を寄せてくれる。そして、みんなで力を合わせて課題に取り組んでいくプロセスこそが面白いのです。

だから、これ以降、私は、どこに配属になっても、どんな職位についても、常に仕事を面白くしようとしてきました。与えられた課題を解決するだけではなく、「前向き」な課題を見つけ出して、次々とチャレンジしてきたのです。

この世の中には、「完成された仕事」というものはありません。どんなに完成されたように見える業務システムが構築されている職場であっても、必ず、改善できること、新しくできることはあります。それを見つけて、上司に提言する。それが魅力的な提言であれば、必ず、周囲の人が「俺も」「私も」と力を貸してくれるようになります。みんな「面白い」ことがしたいのです。

しかも、会社というものは、実に“よくできた場所”です。誤解を恐れず言えば、上司にハンコさえ押してもらえば、その時点で「無罪確定」だからです。もしもチャレンジに失敗しても、それはハンコを押した上司の責任。適時的確に上司に報告・連絡・相談しながら、精いっぱい努力を尽くしたのならば、提案した本人の責任が問われることはないのです。

仕事を面白くするのは、驚くほど簡単である

だから、仕事を面白くしない手はないのです。

上司を説得する、と聞くと少々怖気づく人がいるかもしれませんが、そんなたいそうなことではありません。度胸など不要。経営陣が策定した企業戦略に資するアイデアかどうか。問題はこれだけです。なぜなら、戦略に資する提案であれば、却下する理由がないからです。

それに、「前向き」な提案なのですから、万一考えが及ばず却下されたとしても、お咎めを受けるようなことではない。何ひとつ恐れることなどないのです。私は、「会社の天井に穴を開ける」と言っていましたが、「会社の天井」などたいしたものではありません。どんどん「穴」を開けて、仕事を面白くしたほうがいいのです。

もちろん、アイデアを実現する過程では困難が次々と立ちはだかります。

しかし、若いうちであれば、それほど大きなチャレンジができるわけでもありませんから、恐れることなどありません。一生懸命にやっていれば、上司も助け船を出してくれるはずです。たとえ失敗したってたかがしれています。

そもそも、たかだか1m2のデスクにかじりついて、命じられた仕事をこなしているだけでは、人生つまらないではないですか。若いうちから積極的に「面白い」ことにチャレンジしなかった人が、歳を重ねてから、突然「面白い仕事」を生み出すことなど絶対に不可能。そして、「面白くない仕事」には誰も力を貸してはくれません。つまり、リーダーシップを発揮することなどできないのです。

だから、リスクの小さい若いうちに、どんどんチャレンジしてほしいと、私は願っています。それこそが、優れたリーダーになるための大切な練習なのです。


出典:ダイヤモンド社 書籍オンライン Copyright © 2016 DIAMOND,Inc. All rights reserved.

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著者紹介

  • 荒川詔四(あらかわ・しょうし)

    荒川詔四(あらかわ・しょうし)

    世界最大のタイヤメーカー株式会社ブリヂストン元CEO。1944年山形県生まれ。東京外国語大学外国語学部インドシナ語学科卒業後、ブリヂストンタイヤ(のちにブリヂストン)入社。タイ、中近東、中国、ヨーロッパなどでキャリアを積むほか、アメリカの国民的企業ファイアストン買収時には、社長秘書として実務を取り仕切るなど、海外事業に多大な貢献をする。タイ現地法人CEOとしては、国内トップシェアを確立するとともに東南アジアにおける一大拠点に仕立て上げたほか、ヨーロッパ現地法人CEOとしては、就任時に非常に厳しい経営状況にあった欧州事業の立て直しを成功させる。その後、本社副社長などを経て、同社がフランスのミシュランを抜いて世界トップシェア企業の地位を奪還した翌年、2006年に本社CEOに就任。「名実ともに世界ナンバーワン企業としての基盤を築く」を旗印に、世界約14万人の従業員を率いる。2008年のリーマンショックなどの危機をくぐりぬけながら、創業以来最大規模の組織改革を敢行したほか、独自のグローバル・マネジメント・システムも導入。また、世界中の工場の統廃合・新設を急ピッチで進めるとともに、基礎研究に多大な投資をすることで長期的な企業戦略も明確化するなど、一部メディアから「超強気の経営」と称せられるアグレッシブな経営を展開。その結果、ROA6%という当初目標を達成する。2012年3月に会長就任。2013年3月に相談役に退いた。キリンホールディングス株式会社社外取締役などを歴任。

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  • 優れたリーダーはみな小心者である。

    優れたリーダーはみな小心者である。

    著者:荒川 詔四
    出版社:ダイヤモンド社
    定価:1,458円

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