あの人の推薦書籍

2017.04.04

世の中は何が起こるか分からない。だから自分がやりたい仕事、能力を伸ばせる仕事を選んだ方がいい。

作田 貴志(講談社USA COO)

日本の映画会社勤務から、33歳でアメリカに渡米。その後、様々なキャリアを経て、現在はニューヨークにて講談社USAのCOOとして活躍されている作田貴志さん。映画業界から出版社のCOOに転身するまでの激動の道のりとは!?

また映画『着信アリ』やコミック『進撃の巨人』などを筆頭に、日本の作品をアメリカで展開し、数々のヒット作を生み出している秘訣も伺ってきました。

作田 貴志(講談社USA COO)

下積み時代に、高倉健さんとの運命の出会い

―― 作田さんは、もともとは映画業界で働かれていたんですよね?

作田貴志(以下、作田) 大学卒業後は、日本の映画会社に入社しました。最初は映画の撮影現場で下積みを経験したのですが、毎日始発の電車で現場に入り、帰宅は終電かタクシー。その会社は年間70本映画を作っていたので、とにかく忙しく、撮影の仕事は体力的にきつかった。でも、ある撮影現場で、高倉健さんとの出会いがありました。

高倉さんは下っ端の私に「現場は楽しいか?将来は何になりたいんだ?」と話しかけてくださいました。将来はプロデューサーになりたいと答えると「将来プロデューサーになったら、俺のこと使えよ」と言ってくださったんです。

高倉さんを起用できる映画のプロデューサーなんて、日本に数えるほどしかいない。そう分かっていても、プロデューサー志望の若造が高倉さんにそんな風に言われたら嬉しくてね。その一言だけで「将来、ひょっとしたら高倉さんに出てもらえるかもしれない。」と心に秘め、辛い仕事を乗り越えることができました。

残念ながら、もう亡くなられてプロデュースすることはできませんでしたが、あの一言があったからこそ、やってこれたのだと思います。

ひょんなことから、念願のプロデューサーに

作田 その後、撮影現場を離れ、企画制作部という部署に異動しました。そこは映画の内容や、制作スケジュール、プロデューサーや映画監督を誰にするのかなどを企画する部署。ある時予算が少ない案件があり「これ以上プロデューサーを雇うと予算がなくなるから、お前がやれ」と上司に言われ、急に「プロデューサー」という肩書きをいただくことになりました(笑)。

そうやって念願のプロデューサーになったのですが、その数年後には会社の体制が大きく変わり、テレビやビデオ映画を作る部署に異動になってしまいました。もともと映画を作りたくて入社したのにと、暫く悶々と日々を過ごしていたのですが、このままではダメだと思い、世界で一番映画が盛んなアメリカの大学院で学ぶことを決意しました。それから2年計画で英語の勉強と貯金をスタートし、33歳で渡米しました。

ひょんなことから、念願のプロデューサーに

アメリカで就職したけれど…山あり谷ありのキャリアがスタート

―― 本場であるアメリカの大学で学ばれて、いかがでしたか?

作田 アメリカの大学院では、日本での映画制作で経験してきた事を系統立てて考え、振り返ることができた点では意味がありました。けれど正直な話、やはり頭で習っただけでなくプロとしてそれを実践してみないと物足りないと感じました。そこで、せっかくアメリカで学んだのだから、プロの世界で働いて経験をした上で日本に帰ろうと思いました。

とはいえアメリカに住んで働く為には、労働ビザを取らなくてはいけない。そのためには、労働ビザをサポートしてくれる会社を見つける必要があったけれど、なかなか見つからなかった。

1年後、知人の紹介がありなんとか就職し、労働ビザをゲットすることができました。もうアメリカに滞在できるビザの期間もギリギリでしたし、日本に帰るお金もないぐらい貯金もギリギリ。私は、今も昔も、こんな風に人生ずっと綱渡りしてますね(笑)。

―― 就職先はどんな会社だったのですか?

作田 就職したのは日本のマーケットに合った海外の映画を買い付けし、日本に販売する会社でした。そこで私はロサンゼルスにオフィスを開設し、日本で流行りそうな面白い映画を見つけては、本社に提案していたのですが、保守的な会社でなかなか「その映画を買おう!」というGOサインが出ない。そうこうしている内に、競合他社に先を越されてしまうという事を繰り返していました。「せっかくアメリカで働いているのに、このままでは人間が腐ってしまう」と悩んでいたタイミングで、今度はある会社からお誘いがありました。

その会社は、日本のアニメと映画をDVDにしてアメリカ市場で発売している会社でした。その会社から「うちの会社は楽しいですよ。やりがいがありますよ」と誘われたのと、その会社がニューヨークにあったいうこともあり、「人生で1回ぐらいニューヨークに住むのも悪くないかもな」と思い転職をしました。しかし入社してみたら…制作スケジュールも資金繰りもぐちゃぐちゃ。「一体この会社はなんなんだ」と驚きました。

でも来てしまった以上、もう後にも引けない。もともと私は、アメリカで流行りそうな日本の作品を見つけて買い付けをするという職種で採用されたのですが、その会社に入って私がまずしたことは、買い付けをストップすることでした(笑)。まず支払いスケジュールとリリーススケジュールをきっちり組み直し、本当に必要な作品だけ買うことがいかに大事なことか、私の拙い英語で、アメリカ人の社長や各部署の人達に説得して回りました。そしてもう1つしたことは、支払いが滞ってご迷惑をかけていた日本の会社に、謝罪行脚することでした(笑)。その立て直しに、2年半ぐらいかかりましたね。

「俺のところに来ないか?」からめぐり合うヒット作

作田 そうやってなんとか体制を整え、業務も滞りなく進められるようになったタイミングで、今度は日本の映画会社時代の先輩から連絡がありました。その方も転職され、角川映画の代表取締役専務になっていて、「ロサンゼルスオフィスを立ち上げることになったので、俺のところに来ないか?」とお誘いくださいました。そして「それも面白そうだなぁ」と、またニューヨークからロサンゼルスに戻ることになったのです(笑)。

そこの会社は3つの事業があり、1つは角川が製作した映画をアメリカ向けにリメイクすること、2つ目は角川の作品を原作として映画製作をすること、3つ目が角川が製作した映画やアニメをアメリカのマーケットで発売することでした。

当時アメリカで『リング』や『呪怨』など日本ホラーブームが起こっていたことも手伝って、その会社で制作した映画『着信アリ』は公開週全米4位のヒットを記録しました。

「俺のところに来ないか?」からめぐり合うヒット作

ヒット作を生み出す秘訣は「目利き力」を上げること

―― 作田さんはこの映画『着信アリ』を筆頭に、現在、講談社USAでもコミック『進撃の巨人』をはじめ日本の作品をアメリカで展開し、次々とヒット作を生み出されていますよね。その秘訣はどんな所にありますか?

作田 そう言っていただけるのは嬉しいのですが、私が携わってきた仕事は、既に完成した日本のコンテンツを基にアメリカ向けにリメイクしたり、英語翻訳版を作成することですので、そういう素晴らしい作品と出会えたという運の良さもあると思います。それに作品をきっちり仕上げて世に出してくれるスタッフに恵まれたということも大きいです。

また作品を選んだり決めたりする上で最低限必要なことは、まずはリサーチすることですね。今どういう傾向のものが売れているのか、以前同じような作品が出て売れた場合、なぜ売れたのか。逆に売れなかった場合、なぜ売れなかったのかなどを分析して、その数値がよければ最後は自分の勘で決めます。

その勘はどういう風に養うかというと、できるだけ多くの傑作と言われるものに接して目を肥やすこと。そうすると何が駄作で何が傑作か分かるようになります

ではそんないい作品に接する為には、何をすればいいのか。それは、本物を知っている人になるべく会って色々聞くこと。さらにそういう人に出会っても対等に話ができるように、自分でも本を読んだり勉強することですね。

また、良い作品でも売れるとは限りません。良い作品でもマーケティングの力が足りないなど、様々な要因で消えていった作品もたくさんあります。でもそれも同じ様に、当たっている作品をたくさん見れば、何が当たるか何が外れるか分かってきます。そうやって「目利き力」を上げることが大事だと思います。

そうは言っても、「これはヒットするだろう」と思っていたのに大コケしたことも何度もありますよ。過去の実績などを当てにし過ぎず、常にトレンドや世の中の流れを掴まないといけないなと反省する事も多々です。

またヒット作が出たといっても、自分一人で作る訳じゃない。映画を作るにしても、本を作るにしても、多くの人の協力があってできるもの。だから一緒に働く人には常に感謝しています。

会社の閉鎖、さらに転職先でリストラの危機

―― 作田さんはその後、角川映画USAの経営もご経験されていますよね?

思考は現実化する 上

思考は現実化する 上

著者:ナポレオン・ヒル
出版社:きこ書房
定価:810円

作田 はい、数年後には角川映画USAの社長になりました。初めて経営者となり最初は苦労しましたが、ナポレオン・ヒルの『思考は現実化する』という本を読み、経営とは何たるかを学びました。そこで学んだことは、講談社USAを経営している今でも役立っています。

作田 しかしある日突然日本の本社に呼び出され、会社の方針が変わったため、角川映画USAをクローズすると言い渡されました。部下をクビにしなければならなかったこと、最後は経営していた会社の精算作業を一人ですることはとても辛い経験でしたね。

会社をたたんだ後は、その前に勤務していたニューヨークの会社から「また戻ってきてほしい」と連絡をいただいていたので、再就職することができました。しかしその会社は業績が悪化していたこともあって、私が入社した3ヶ月後には大量のリストラを始めました。

50歳過ぎて採用試験を受けることになるとは思わなかった

作田 「このままだと自分もいつかリストラされるだろう、また別の就職先を見つけなければ」と考えていた所、知人から講談社の国際部で人員を募集しているという連絡を受け、採用試験を受けることに。インターネットで国語と数学のテストを受けたのですが、まさか50過ぎてテストを受けることになるなんて思わなかったですね(笑)。

その後、無事筆記試験が通って面接に行ったら、これまでずっとエンターテイメント業界にいたということもあり、試験官に知り合いが多いという非常にやりずらい面接でした(笑)。

でも面接が進んでいくにつれ、講談社本社の国際部の採用試験を受けていたのに「ちょうどニューヨークにある海外法人、講談社USAの責任者を探しているのですが、作田さんのご経歴を拝見した所、適任かと」ということで、現在の仕事に就任しました。講談社USAグループでは、日本の小説やコミックを英語に翻訳し、紙版・デジタル版ともにアメリカで出版しています。

50歳過ぎて採用試験を受けることになるとは思わなかった

今までの経験を応用できることをコツコツやることが、未来につながる

―― 作田さんのこれまでのキャリアは、色んなことを経験されているようで、点と点が繋がっていて最終的に1本の道になっているような印象を受けますが、何か意識されてきたことはありますか?

作田 確かに、今までの人生を振り変えれば紆余曲折ありましたが、アメリカで流行りそうな作品を見つけて買い付ける仕事、作品をプロデュースし世に送り出す仕事、海外での会社経営など、不思議とそれらの経験は全部、今の仕事に活きていますね。でもそれは計算してやった訳ではありません。過去の経験を応用できることをコツコツやっていったから、今に繋がっているのだと思います。

―― 作田さんは映画業界と出版業界という異なる業界で、それぞれ結果を出されていますが、ご自身ではそれは何が起因していると思いますか?

作田 私は映画が好きという理由で映画会社に入ったのですが、自分より映画に詳しい人や、学生時代から映画を作っていた人がたくさんいてショックを受けたんですよね。だから少しでも追いつきたいと必死で努力をしました。

出版社にいる今も、自分よりも本を読んでいる人、自分より漫画やアニメに詳しい人、出版業界に精通した人がたくさんいます。彼らに早く追いつきたいというコンプレックスのお陰で、たくさん学び、成長することができたのだと思います。いつまでも学び続けることは大切です。色々なことを知ると、もっと面白いことに出会えますしね。

仕事はほとんど辛いもの。でも一瞬の楽しみがあるから働いている

―― これまでの様々なキャリアをご経験されてきて、一番辛かったこと、大変だったことは何ですか?

作田 ずっと辛いですね(大笑)。でも世の中みんなそうだと思うけれど、しんどいことの中にある、一瞬の楽しみのために一生懸命働いているんじゃないかなと思います。

先日、引退した広島カープの黒田投手があるインタビュー記事の中で「マウンドに上がるのは怖くて仕方がないけれど、ファンの方達が待っているからマウンドに上がる」と仰っていたんですよ。それだけプロの世界で生きていくって楽しい事ばかりじゃないんだなって思うんですよね。だからこそ、お金をもらえるんです。

私もこれまで色々な映画を作ったり、本を出版したりしてきましたが、その過程は辛いこと、大変なこともたくさんある。でも出来上がって映画が上映されたり、本の著者や読者が喜んでくれたりすると嬉しい。そういう一瞬の楽しみのために、辛い思いをして力を注いでいるんだと思います。

人生何が起こるか分からない。だからこそ安定ではなく、自分がやりたいと思う仕事、能力を伸ばせる仕事を選んだ方がいい

―― 最後に読者の皆さんに向けてメッセージをお願いします。

作田 私が学生だった時は、みんな安定した大企業に入りたがっていたけれど、その大企業が今業績不振で大量のリストラをしていたりする。人生何が起こるか分からない。だから大企業だから、安定した企業だからという理由だけで会社を選ぶのではなく、自分がやりたいと思う仕事、能力を伸ばせる仕事を選んだ方がいいと思います。

あとは楽観的でいることですね。私の好きな言葉で「悲観主義は気分によるものであり、楽観主義は意思によるものである」という哲学者アランの言葉があるのですが、人生色々ありますから悲観的になりすぎず、前向きに生きることが大事だと思います。

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

typeメンバーズパークの最新情報をお届けします

推薦者紹介

  • 作田 貴志

    作田 貴志

    講談社USA COO。
    株式会社にっかつに入社し、映画プロデューサーとなる。その後アメリカに留学し、映画業界から出版業界にて様々なキャリアを経て、現在はニューヨークにて講談社USAのCOOとして活躍。映画「着信アリ」やコミック「進撃の巨人」などを筆頭に、日本の作品をアメリカで展開し、数々のヒット作を生み出している。
    講談社USA HP:http://www.kodanshausa.com

書籍を購入する

  • 思考は現実化する 上

    思考は現実化する 上

    著者:ナポレオン・ヒル
    出版社:きこ書房
    定価:810円

  • honto

    読みたい本に必ず出会える。読みたい本を読みたい形で読める。「honto」は書店と本の通販サイト電子書籍ストアがひとつになって生まれた、まったく新しい本のサービスです。

もっと見る