著者インタビュー

2017.04.25

理想や目標なんか考えるな。目の前の仕事を大事にする「いまここ」の精神で、未来は切り開ける。(鈴木敏夫×石井朋彦)

鈴木敏夫(株式会社スタジオジブリ 代表取締役プロデューサー)
石井朋彦(株式会社クラフター 取締役プロデューサー)

スタジオジブリで6年間務めたあと、株式会社クラフター取締役としてアニメ映画のプロデューサーを続けている石井朋彦氏。石井氏はジブリ在籍時、世界的ヒットを生み出し続けるプロデューサー鈴木敏夫氏の下で鍛えられた逸材だ。その時代に教えを書き留めたノートの山は、段ボール2箱ぶんにもなったという。

それをまとめた『自分を捨てる仕事術―鈴木敏夫が教えた「真似」と「整理整頓」のメソッド―』(WAVE出版)は、いまも売れ続けている注目のビジネス本だ。鈴木氏も『ジブリの仲間たち』(新潮新書)でこれまでの仕事を綴っている。そんな両氏初の師弟対談のテーマは「仕事術」。ジブリ作品の多くの広告を担当し『崖の上のポニョ』では主題歌も歌った藤巻直哉氏の司会で始まった。

鈴木敏夫(株式会社スタジオジブリ 代表取締役プロデューサー)、石井朋彦(株式会社クラフター 取締役プロデューサー)

自分らしさなどいらない。まず頼まれた仕事をしっかりやればいい

自分を捨てる仕事術 鈴木敏夫が教えた「真似」と「整理整頓」のメソッド

自分を捨てる仕事術 鈴木敏夫が教えた「真似」と「整理整頓」のメソッド

著者:石井 朋彦
出版社:WAVE出版
定価:1,620円

石井朋彦(以下、石井) ぼくがジブリに入ったのは、『ホーホケキョ となりの山田くん』(1999年公開)の制作がはじまるときです。制作進行の募集に応募したのですが、最終面接が鈴木さんだったんですね。そのとき、怒鳴りあうような激しいやり取りをしたのを覚えています。

自己アピールしようと必死で話したのですが、ことごとく「それは違う」と否定されたので、22歳と若かった私は反論したんです。これでもうダメだなと諦めていたら、後日採用になったと連絡がきて、ジブリに入れていただきました。

鈴木敏夫(以下、鈴木) あまり覚えてないなあ、入ってからのことはよく覚えているけど(笑)。最初、石井の評判が良くなかったんですね。彼が入ってきて3か月ぐらいのとき、制作部長がぼくのところに来て、石井には協調性がなく、職場で浮いているというんです。「引き取ってくれなければ、辞めさせるしかない」と言うので、しかたなく、ぼくのもとで働いてもらうことになりました。聞けば、石井は人のいうことを聞かずにどんどん自分が思ったことをやろうとするというので、まず人の話を聴く、理解する態度を彼に求めました。

石井 若者によくあるケースで、「自分は間違っていない。世界が間違っている」という私の考えを、鈴木さんには一から正してもらいました。そこで言われたのは、「自分の意見を一回捨てなさい、お前の意見など必要としていないのだから」ということでした。そして、人が喋ったことや会議の議事録、鈴木さんが話したことや身振り手振りまで、すべて文章にして書いてその日のうちに送れ、ということも言われました。それをやっていると、しだいに周りのみんなが言わんとすることがわかるようになり、それまで自分がいかに小さい世界にこだわっていたかということに気づいたんです。

鈴木 ぼくの持論は、生きていくうえで「読み、書き、そろばん」が最も大事だということ。読んで書けば理解できる。ぼくにとって石井がどういう人間かというのは関係なく、頼んだことをやってくれるかどうかだけが関心事でした。ぼくが彼に頼んだのは、監督の高畑勲さんや宮さん(宮崎駿)とぼくとの伝達役です。彼の場合は、絵コンテの内容を記憶して、その内容を人に伝える能力が長けていたから、ぼくとしては大変助かりました。

石井 鈴木さんからは「『仕事は公私混同』だぞ」とも教わりました。これは今のブラック企業のように、プライベートの時間をなくしてまで仕事をやれという意味ではありません。「お前は先を見すぎて目の前のことがおろそかになっている。未来のことは考えるな。ご飯を食べてる時も、風呂に入っているときも仕事に結びつくんだから」。つまり、すべて仕事に結びつくと思えば日々の仕事も楽しくなる。例えばメールの文章なんかは、内容を移動中とかに考えておいて、デスクワークの時間にはそれをバーっと書けば「仕事」はすぐ終わる、ということです。

「自分の個性を発揮して、自分しかできない仕事がしたい」と力んでいた石井氏は、鈴木氏のもとで、自分にこだわっていてもいい仕事はできないことに気づかさせる。そうして鈴木氏から学んだことをまとめたのが、『自分を捨てる仕事術』だ。特に若手時代に悩みがちな、仕事に対する向き合い方の参考となる本である。

得意なことをみんなが持ち寄れば、思ってもみないことができる

石井 「自分にこだわっていたら世界は広がらない、仲間を増やせばもっとおもしろいものができる」ということも、鈴木さんからは学びました。いまも覚えているのは、「すべての取引先の会社に好きな人をつくれ。そしたら、その会社に行くのが楽しくなるぞ」ということです。自分をよく見せるようになるし、がんばるようになるはずだということです。

「同世代の飲み会には行くな」とも言われましたね。上の世代の決定権のある人か、自分より若くても自分にないものをもっている人と飲めということです。確かに、同世代と飲んでいると楽だし、気持ちいいのですが、何も得るものがないんですよね。

「お前の得意技はAさんからBさんに情報を伝えること。仲間を増やせば増やすほど、仕事はおもしろくなるんだから、お前にないものを持っている人と組め」との助言もありましたね。「宮さんの得意技は何だかわかるか?ストーリーでもなく、企画でもなく、誰も見たことのない特異なキャラクター生み出せることだ。それを俺は宮さんにやってもらうように仕向けているんだ」と言っていたのが印象的でした。

鈴木 改めて石井から聞いて、宮さんの得意技は確かにそうだなと我ながら思いました。宮さんの作品は、ストーリーは普通(笑)。でも、奇妙奇天烈なキャラクターをつくらせたら、右に出るものはいない。実は『となりのトトロ』をつくっているときは、そこに集中させるのに必死だったんですよ。「トトロ」は、高畑勲さんの『火垂るの墓』と同時に制作がスタートして、2本立てで公開だったので。

藤巻 高畑さんは宮崎さんにとって先輩で、ライバルであるのと同時に、尊敬してやまない師匠と言ってもいい人なんですよね。そして、その高畑さんは宮崎さんの才能をいち早く見出した人ですよね。

鈴木 まったくその通り。だから、宮さんは高畑さんのことが異常に気になっちゃって。「トトロ」の制作中に『火垂るの墓』が文学作品だと伝えたら、「何?文学作品?そんなに本気じゃあ、俺、ネコバスなんてバカなことやってられないよ」と言い出したんですね(笑)。それを説得するのに大変苦労しました。宮さんが高畑さんと同じようなことをやろうとしたら、「トトロ」という作品は到底生まれなかったと思うんですよ。

うまくいっても、おれがやったと言わないこと

石井 鈴木さんからは、「ひとりでやらないこと」というのも教えてもらいました。仕事が成功しても鈴木さんは「あれはおれがやった」と言わないんです。この業界にはヒット作が出ると、「あれはおれがやった」という人が雨後の筍のように出てくるんです。業界では「アレオレ詐欺」というんですけど(笑)。

いつだったか会議のときに、鈴木さんに「それって、ぼくが言ったことじゃないですか」と?みついたことがありました。すると、鈴木さんは「どうでもいいじゃん、そんなこと」って……。誰が言ったかどうかなんてどうでもいい、大事なことはそんなことじゃないだろというわけです。まだそこにこだわっていたぼくは、心底恥ずかしい思いをしましたね。

「俺がやった」と言わなければ、人は信頼してくれるようになるし、自然と評価してくれるようになるものです。すごい人はみんなそうなんです。自分だけで責任を背負いきれないことがわかっている。だからこそ自分にこだわらないし、主張もしないし、仲間の力も借りるんです。

鈴木 たしかに宮さんは自分がやったとは言わないな。むしろ人がやったことをよく覚えているよね。

藤巻 人が「こう言っている」と、影響力のある人の名前を出して言うんですよね。それが鈴木さんもうまい。

石井 打ち合わせのテクニックを鈴木さんから教えてもらったことがあるんです。自分の結論を先に言うと拒否されるから、自分の意見に近い人が現れたら、その人を褒める。そのうえで自分の意見を言うようにする。そうするとみんなが同意しやすいんだということなんです。

鈴木 それって、ある小説の主人公の影響を受けているんです。中里介山の『大菩薩峠』という小説の机竜之助。この剣士はチャンバラのときに、絶対に自分からは切りかからずに、すべて受け身で返すんです。この受け身というのが自分に合っているなと思っているんですよ。

オリジナリティーなんか求めるな

ジブリの仲間たち

ジブリの仲間たち

著者:鈴木 敏夫
出版社:新潮社
定価:907円

石井 私は団塊ジュニア世代で、自意識過剰なところがあり、他人とは違うことをやろうとずっと思っていました。でも、そういうひとりよがりではダメで、「他人に必要とされる自分が自分」なんだということにも気づかされましたね。

「これは自分がやりたい仕事ではない、別にやるべき仕事がある」と辞めていく人が多いのですが、そんなばかなことないですよね。「誰かに必要とされてこそ自分が存在する価値があるんだから、頼まれた仕事を一生懸命やればいいじゃん」……と鈴木さんに言われても最初はぼくもわかりませんでしたが、本当にそうなんです。

藤巻 宮崎さんですら、自分にオリジナリティーなんかないと言っていますよね。「自分しかやれないことにこだわるとか、そんなものはないんだからやめな」と。自分が生み出してきたものは、自分が生きてきた中で吸収したものを単にアウトプットしているだけだっていうんですから。

石井 「世間で言っているオリジナリティーというのは、先人から受け継いだバトンのようなもので、いっとき持って走ってあとは後世に渡す。それが俺の仕事だ」と宮崎さんは仰っていました。

鈴木敏夫氏が上梓した『ジブリの仲間たち』(新潮新書)は、石井氏をはじめとしたジブリの関係者たちとのエピソードをまとめた一冊。優秀な人もそうでない人も、それぞれの得意なことを生かして立派に仕事をしていることが、ありありとわかる。世の中に広く受け入れられる作品が出来上がるまでにはどんな人が、どんな仕事をしているかもわかりやすく明かされており、ファンだけでなく、多くのビジネスパーソンにとっても楽しみながら、仕事のやり方のヒントをつかめる内容となっている。

「キキ」と「雫」の生き方のどちらを選ぶか

石井 鈴木さんがよく例に出していますけど、結局、仕事をするというのは『魔女の宅急便』の主人公「キキ」と、『耳をすませば』の主人公「雫」のどっちの生き方を選ぶかということだと思います。キキは魔女という自分の血を使って目の前の仕事に奮闘する。かたや雫は将来、小説家になろうと決意して、その目標に向かって努力する。私はジブリに入るまでは雫の生き方でした。目標を定めて、自分にしかできないことをすることで、何者かになろうとしていました。でも、むしろキキの生き方のほうがいいんじゃないかと鈴木さんに言われたんです。そうやって、目の前を一歩一歩、進んでいけばいいんだということに救われる思いがありました。

鈴木 2つの生き方があると思うんです。目標を決めてそれに向かって努力するという生き方と、目標を定めないで目の前のことをコツコツやる生き方です。後者の道を行くことで未来が開けていくこともあることを、ぼくは自分の人生で経験したんですね。

ぼくだって若いときは目標が必要なのかと思っていたけれど、なかなか忙しくてできなかった。でも、目の前のことをコツコツやることで未来が開けていった経験をして、そのことを自分で学ぶことができたんです。

石井 鈴木さんは「宮さんも高畑さんもみんなそうだったんだぞ」と言ってくださいましたよね。彼らも夢があったけれど、叶わずに悶々としていた時期があったと。

鈴木 そう。高畑さんは友達がアニメ制作会社の東映動画(現東映アニメーション)の入社試験を受けるというのでついて行き、ただ待っているのもヒマだからついでに応募したら、自分だけが受かってしまって入ったんです。本当は実写のほうをやりたかったのだけど、不況でできなくて、しかたなくアニメーションの仕事をはじめた。だから、高畑さんはアニメーションの演出をやろうとは思っていなかったんです。

宮さんが当時の東映動画に入った理由も似たようなものです。彼は漫画家になりたくて描いていたけれど、この世をはかなむ根暗な漫画(笑)だからどこも採用してくれなかった。そんな悶々としているときに、彼が映画館で見たのが日本初の長編アニメーション映画『白蛇伝』(1958年公開)。この作品の中の少女・白娘(ばいにゃん)に一目惚れして、東映動画への就職を決意したんです。ふたりとも、いってみればうかつに、軽はずみに決めたんです(笑)。人生ってそういうものですよ。ぼくだって当時は自分が何に向いているかなんて、いくら考えても答えは出なかったですよ。

藤巻 ぼくも基本的にマスコミ志望で、出版社とか放送局に行きたかったんです。でも、最初に内定が出た広告会社に入ったんですね。広告の仕事は、やるつもりなかったのに。いまの学生もやりたいことがないと悩んでいる人が多いのではないでしょうか。

未来でなく、過去でなく、「いまここ」を大事に生きる

鈴木 ジブリで働く人たちが辞めたいと言ってくるとき、共通している理由は「このままでは自分を見失いそう」ということ。そういう人には「理想が高すぎるんじゃない?」と言い続けてるんです。誰でも理想の自分から見れば、いまの自分はみすぼらしく見えるもの。だから「目標とか理想をもつのをやめてみたらどうか」って。

映画『男はつらいよ』の寅次郎を見てごらんなさいと。あの人が考えているのは、マドンナのことだけ。自分のことは考えず、理想や目標も持っていない。つまり、考えているのは人のことばかりなんです。だからあれだけ元気で楽しそうなんです。自分のことばかり考えていると疲れるんですよ。

石井 自分のことばかり考えている人は、病名ではなく、広義の意味でうつになるんだと鈴木さんは言っていましたよね。「人のことを考えていたら、そうはならないからな。朝起きたら自分のことでなく、まず他人のことを考えろ」と。実際にそうするようになったら、仕事が楽しくなりました。

鈴木 ぼくは誰かに学んだんですよ。何かやる前からごちゃごちゃ考えるとうまくいかない。先のことを考えるな、過去をくよくよしてもしょうがない。だから「いまここで大事なものは何か」ということだけに集中するのが重要だということ。それって禅の教えなんですよ。いま禅にすごく興味を持っていて、禅は「いまここ」を大事にする。現在、過去、未来の中で「いま」をとらえるとうまくいかない。いまここだけに集中して、次も何かやれたらいいなと思っています。

藤巻 本日はお二人ともありがとうございました。

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著者紹介

  • 鈴木敏夫(株式会社スタジオジブリ 代表取締役プロデューサー)

    鈴木敏夫(株式会社スタジオジブリ 代表取締役プロデューサー)

    1948年生まれ。慶応義塾大学卒業後、徳間書店に入社。『週刊アサヒ芸能』などを経て月刊『アニメージュ』の創刊に携わる。同誌の編集を行いながら、1984年公開の劇場版アニメ「風の谷のナウシカ」を製作。1985年、スタジオジブリの設立に参加し、以後「天空の城ラピュタ」「となりのトトロ」「火垂るの墓」「魔女の宅急便」を製作。1989年以降はスタジオジブリ専従となり、以後、全劇場作品及び、三鷹の森ジブリ美術館のプロデュースを手がける。2016年6月に著書『ジブリの仲間たち』を上梓。

  • 石井朋彦(株式会社クラフター 取締役プロデューサー)

    石井朋彦(株式会社クラフター 取締役プロデューサー)

    1977年生まれ。アニメーション映画プロデューサー。1999年スタジオジブリ入社。「千と千尋の神隠し」からプロデューサー補として、鈴木敏夫氏のもとで仕事を学ぶ。ジブリ退社後、多数のアニメーション作品を企画・プロデュース。現在は、株式会社クラフター取締役プロデューサー。2016年8月発売の本書が初めての著書となる。

  • 藤巻直哉(株式会社デスパ 代表取締役)

    藤巻直哉(株式会社デスパ 代表取締役)

    1952年生まれ。株式会社デスパ代表取締役。 元・株式会社博報堂DYメディアパートナーズのエグゼクティブプロデューサー。慶應義塾大学在学中、フォークバンド「まりちゃんズ」を結成しプロデビュー。大学卒業後博報堂入社。サラリーマンを続けながら、「すみちゃんとステゴザウルス」、「藤岡藤巻」等のバンドでミュージシャンとしても活動。博報堂では映画プロデューサーとして多くの作品を手がける。スタジオジブリ作品の映画製作担当を長年務め、『崖の上のポニョ』では「藤岡藤巻と大橋のぞみ」として主題歌を歌っている。

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    著者:石井 朋彦
    出版社:WAVE出版
    定価:1,620円

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