著者インタビュー

2016.10.03

【後編】「優秀な人材も、まだ本当の勝負をしていない」シリコンバレーでロボット技術に挑む、その想いとは(加藤崇インタビュー)

加藤崇(加藤崇事務所 代表)

日本で初めてGoogleに会社を売った男・加藤崇氏。加藤氏が現在シリコンバレーでチャレンジしていることは?実際にアメリカに住んでみて感じた日本との環境の違いや、次なる大きなチャレンジについて迫ったインタビュー後編です。

加藤崇(加藤崇事務所 代表)

守られた環境でプレーすべきではない

―― 「日本にも優秀な人材はたくさんいる」とおっしゃっていましたが、加藤さんは今の日本に希望を持っていますか?

やる気に満ち溢れた優秀な人材は、もちろん日本にもいます。しかし、どこまでいっても大企業志向だったり、守られている場所でプレーしてしまっていると思うんです。ある種のシェルターの中で働いている感覚です。せっかくの優秀な人材も、気を使ってストレートを投げず、カーブばかりで勝負をしているような。要するに本当の勝負をしていないと思うんです。そういう意味では、日本は人材という資源を半分も使えていないと思います。

―― 「何かやってやりたい!」と思っている人は、シェルターから抜け出して本当の勝負をするべき、というお考えなのですね。

守られた場所の中でプレーしてしまうと、大きい成果をあげるのは難しくなります。でも、本当の勝負をすることってつらさが伴うんですよね。今の日本には、そのつらさを緩和する制度が整っていないと思います。日本は国をあげてチャレンジする人を支援する制度を整えるべきだと思います。

―― 加藤さんもシャフト立ち上げの時に国内で壁にぶつかり、海外へと目を向けることになりましたよね。

そうです。同じように日本人の若者が本当の勝負をしようと思ったとしても、今度は国内での規制の多さや資本の少なさ、同じような志を持つ人の少なさに直面すると思います。そうなると国内では難しくなり、海外へ目を向けるようになるのです。だからこそ、「日本で育てて海外へ」と考えるのではなく、最初からアメリカの市場で勝負して、スピードレースに巻き込まれる方が良いのかもしれないと今は考えています。今僕が手掛けているビジネスも、日本の市場はまったく頭に入れず、アメリカ一点突破です。そのためにも、現在シリコンバレーに住みながら、こちらで働いています。

シリコンバレーのレベルの高さに驚く日々

―― シリコンバレーの環境は、やはり日本とは違いますか?

アメリカ、特に西海岸は、ビジネスに関する環境がものすごく整っています。資金は豊富で、経営人材やミドルプレイヤーもゴロゴロいます。エンジニアもすさまじい人材がそろっていますし。日本とは比べ物にならないぐらい、ダイブしやすい環境が整っていると思いますよ。日本ではちょっと物足りなさを感じていた僕は、こちらに来てから周囲のビジネスパーソンのレベルの高さに、正直焦りを感じています。さらに、海外からも英知を結集する目的で、カリフォルニア自体が移民の受け入れに対して非常に積極的なんです。だからこそ、移民に対する教育や生活環境も整っていると感じます。

―― ビジネスの環境だけでなく生活や教育環境まで整えて、優秀な人材を集めているのですね。

そうなんです。あらゆる角度から、知的生産性が高いものをここから生み出すために必要なものを全て結集させようとする制度が整っているんです。たとえば、自分の息子を学校に通わせようと思った時に、外国からきた子どもたちは30日以内にテストを受けるんですよ。もしそこで英語の成績が悪かった場合、無料でカリフォルニア州のフォロー授業を受けることができるんです。ここまでして、世界中の英知を一ヶ所に集結させようという試みは、アメリカしかできていないし、できないんじゃないかと思ってます。その点に関しては、毎日が驚きの連続です。

シリコンバレーでものすごいビジネスを立ち上げた第一人者になりたい

―― そんなシリコンバレーで、加藤さんは今どんなチャレンジをしているのですか?

現在は日本のロボットベンチャーHiBot(ハイボット)という会社の、アメリカ法人の社長をしています(日本法人の社長も兼務)。この会社は東京工業大学発のベンチャー企業で、東工大が40年温めていた技術を使って、ロボットをつくっています。これまではベンチャービジネスとして芽が出ていませんでしたが、ロボットの技術としてはハードウェアを中心に幅広く持っていて、かつディープな分野の技術も持ち合わせていたんです。

―― ハイボットでは、どのようなロボットをつくっているのですか?

今最も注目しているのは、パイプ点検ロボットです。石油とか、ガスのパイプラインの点検をするロボットのことです。油もガスも、爆発する危険性がありますよね。そのリスクを避けるために点検が大切です。パイプの大きさには種類があるのですが、小径のパイプを検査するロボットっていうのが、今まではなかったんですよ。

―― 今までにはなかったロボットをつくる、というのはシャフトの時と同じですね。

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そうなんです。僕がハイボットでやるべきことは明確で、結局ロボットは人間の生活に役立つことが必要なんですよね。シャフトの時は商用製品がつくれなくて、どこまでいっても試作機でした。そして商用段階に行く前に、グーグルに売却することになってしまいました。それはそれで良かったのですが、今回は商用製品まで進めたいと思っています。

日本のハードウェア技術は非常に高いので、そこでビジネスをつくりだしてアメリカで旗を立てたいんです。それは日本のためにもなると思いますし、僕個人も興味があることなんです。遅れた分野につっこんでいっても勝てる気がしませんが、ロボティクスに関しては日本がいまだ世界の中心軸の一角を形成しています。だからこそ、他の追随を許さない分野である日本の技術を、アメリカにおいてビジネスとして根付かせるということが今の僕にとってのチャレンジです。

―― シャフトの時と同じように、前人未踏の分野にチャレンジしているんですね。

僕、野茂英雄選手が好きなんです。やっぱり、実質的なパイオニアとしてメジャーに行って、野茂選手がドジャーススタジアムで投げて、ストライクをとるっていうところに意味を感じるんです。日本人でシリコンバレーに来ているビジネスパーソンはいっぱいいます。でも、ものすごいビジネスを立ち上げて大きくできた人は、まだいないと思うんです。僕の人生はずっと道場破りなんですよ。今も闘争心にあふれています。誰も成功してないことをやってやりたいんです。今は日本ではなく、こちらで戦いたいと思っています。

―― 加藤さんはまた大きな壁を乗り越えるつもりなんですね!

この壁は結構厚いですよ。石油とガスの業界って、アメリカにおいてはものすごく白人社会なんです。そんな中、日本人である僕が進めていくわけですからね。その上、ハードウェアって開発にも修正にも時間がかかって、中々思うように進まないこともあります。でも僕、つらいことにしか興味ないんですよ。マゾヒストとしては最高の環境だと思います(笑)。

>>【前編】「行動に移せずに悩んでいる人」へ、ヒト型ロボットベンチャーをGoogleに売った男からのメッセージ(加藤崇インタビュー)

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著者紹介

  • 加藤崇(加藤崇事務所 代表)

    加藤崇(加藤崇事務所 代表)

    かとう・たかし/1978年生まれ。早稲田大学理工学部卒業後、東京三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)に入行。法人融資業務などに従事したのち退職。KPMG日本法人を経て、オーストラリア国立大学で経営学修士号(MBA)を取得。技術系ベンチャー企業社長などを歴任し、2011年加藤崇事務所を設立。ヒト型ロボットベンチャーSCHAFT共同創業者兼取締役CFO就任。13年にはSCHAFTをGoogleに売却し、世界から注目を集めた。著書に『未来を切り拓くための5ステップ』(新潮社)、『無敵の仕事術』(文春新書)。現在、米国カリフォルニア州メンローパーク在住。

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