著者インタビュー

2016.11.01

ITを知らない人にこそ知ってほしいサービス革命!
注目の「FinTech」を学ぶ

瀧 俊雄

金融(Finance)と技術(Technology)を組み合わせた「FinTech(フィンテック)」が話題になっています。たびたび耳にしたことがあっても、実はよくわからないという人も多いかもしれません。そこで『FinTech入門』(辻庸介、瀧俊雄著、日経BP社)を上梓した、株式会社マネーフォワード取締役兼Fintech研究所長の瀧俊雄氏に、FinTechとは何なのか、どうして最近、注目されるようになったのかを伺いました。加えて、FinTechに合わせて読みたい、ITを知らない金融業界の人にオススメの本もご紹介いただきました。

瀧 俊雄

今、なぜFinTechが注目されているのか?

―― そもそもですが、「FinTech(フィンテック)」とはいったい何なのでしょうか?

FinTech入門

FinTech入門

著者:辻庸介、瀧俊雄
出版社:日経BP社
定価:1,728円

まず、FinTechという言葉が大きく取り上げられ始めたのは、2015年からです。最初に、導火線に火が付いたのは2月ころ、金融庁におけるFinTechの議論がきっかけでした。続く9月、同庁が発表した「平成27事務年度 金融行政方針」で、「FinTechへの対応」が、重要施策の1つに掲げられました。

つまり昨年、国を挙げてFinTechを盛り上げていこうという流れがあったことが、重要なポイントです。

FinTechという言葉は、人によって異なる意味で使っているので、ここを整理することは大切です。たとえば、今、FinTechというとベンチャーのイメージがあります。しかし本来、金融と技術を掛け合わせるのが一番得意であったのは、大手のシステムインテグレーターです。実は彼らベンダーも、FinTechをずっと手がけてきているのです。

『FinTech入門』の第2章「FinTechを取り巻く環境の変化」でも触れたように、2015年以降の「FinTech」を「FinTech2.0」という人々がいます。彼らにとっての「FinTech1.0」とは、1990年代に進んだ金融機関のオンライン化、すなわちインターネット証券会社の誕生やインターネットバンキングでした。

しかし、当時、サービスの開発と普及には多くのコストがかかり、これらのFinTechサービスを使いこなせる利用者も限られていました。また、日本が低成長のデフレ時代にあり、ユーザーも従来のサービスでも大きな不満がなかったことから、新しい金融サービスを求める声は大きくなりませんでした。

ところが昨年からの「FinTech2.0」で、大きな変化が生じます。背景には技術開発コストの低下、スマートフォンユーザーの増加にともなう普及コストの低下、さらにサービスを使うユーザーの目が肥え、サービスに対する期待が高まったことがあります。

スマートフォンの普及がFinTech業界の追い風に

金融において、これまでインフラ寄りだった消費者の付加価値は、スマートフォンユーザーの増加とともに、サービスの面へと目が向けられるようになりました。この一連の動向が、面白い視点から技術を取り入れ、新しいサービスを生み出すことが得意とするベンチャーのプレイヤーたちに注目されるようになったのが、2015年のことです。

大手の金融ベンダーであれば、大きな失敗は許容されません。しかし、ベンチャーであれば、とにかく一つ、当たり筋のビジネスモデルを見つけることができれば、大きくなることができます。そして、大手の金融ベンダーや金融機関は、優れたビジネスモデルを持つベンチャーに投資なりM&Aなりを行えばよい。このような背景から、大きな投資マネーがベンチャーを中心とするFinTechに入ってきているのです。FinTech業界のユニコーン企業(評価額10億ドル以上の非上場ベンチャー企業)が、なぜ、近年あれほど大きくなれたかといえば、背後に日の目を見なかったベンチャーがあるからです。

これはマネーフォワードも同じです。当然、我々は最初からうまくいくと信じて事業を展開してきていますが、成功の保証は何もありません。だからこそ、お客様のニーズを読みながら、少しでも使っていただけるものを提供していこうと考えます。

このようにFinTechでは、サービス開発はよりユーザーに近い集合体となってゆきます。そこに、FinTechの本質があると思うのです。

健全な競争が生まれて、良質なアプリが増えればいい

―― 『FinTech入門』を上梓されたのは、なぜでしょうか。

もともと金融は、少し難しいものだと思われています。そのうえ、「テック(技術)」が加わると、なおさら敷居が高い。金融と技術といわれた瞬間に、ものすごくハードルが上がります。

でも、FinTechの本質は「サービス革命」です。つまり、思ったほどに難しい話ではなく、簡単な話なのです。まずはそのことを伝えたいと思って、「入門」という言葉をタイトルにつけました。

今では誰もがスマートフォンを通じて、インターネットを身近に利用できるようになりました。そして、従来であればプッシュマーケティングでしか伝わらなかったものやサービスが、比較サイトや口コミサイトなどの登場で、消費者が自らほしいものを探し選べるようになっています。

金融商品も同様です。いまの金融商品を想像して、どんな印象を持つでしょうか。もっとわかりやすく、シンプルにして、かつ、サービスを提供する業者間で、適切な競争が生まれるようにすればよいのです。単純に言えば、良質なアプリが増えればよい、それだけの話です。この動向こそがFinTechなのです。『FinTech入門』では、このシンプルなことを伝えたいと思いました。

FinTechは金融をよりよくするための導火線

―― 本の中では、FinTechという言葉だけが独り歩きしないよう、成功した事例を紹介しながら、具体的にわかりやすく解説していると感じました。たとえば、アメリカの資産管理・会計アプリ「mint」の事例では、ユーザーの使いやすさをひたすら追求して成功した、という話が書かれていますね

本のあとがきにも書きましたが、FinTechそのものに、「いかにお客様に近づくか」というテーマがあると考えています。

たとえば、丸ビルのような実店舗の大型商業施設に行くと、必要でないものもたくさん買ってしまうことがあるかもしれません。しかし、アマゾンのネットショップでは、無駄な買い物をあまりしないのではないでしょうか。それは、インターネット上では、自分がほしいものを定義するという行為があるからなのです。

金融では、いろいろなサービスにおいて、自分が定義できないものがたくさん売られています。金融機関はそれを説明しようとしたり、説明しきれない場合はブランドで補おうとします。でも、本来あるべきサービス業の姿は、商品を本当に理解していただいた上で、それを活かし、いかに幸せになるかという話をすることです。この点を理解しているFinTech担当者は、いきいきとした仕事をしていると感じます。逆に、こうした思いをもって、現在の金融の仕事をできるチャンスが少ないことも事実です。

日本の金融システムはこの15年ほど、厳しい消費者の目に応えるため、よりミスを少なくすべく、守りの投資が多かったという側面がありました。システムを少しでも止めたらすごく怒られますし、消費者が求める高いサービスレベルに応えるだけで、精一杯なところがありました。

本来、技術やITの力が金融にもたらすものは、お客様を幸せにすることであるはずです。しかし金融機関におけるIT企画やIT戦略という部署では、そのモチベーションを簡単に見失いがちです。

だから本書では、「FinTechは金融をよりよくするための導火線ですよ」というメッセージも込めました。またそのために、成功事例やフロンティアを見出だしている例について、各章立ての中で、たくさん説明することを重視したのです。

カード決済のデータが金融サービスとして活かされる、新しい時代が来るかもしれない

―― 『FinTech入門』は、どんな読者に向けて書いたのでしょうか?

コアセグメントは金融機関におられる方々全般です。特に、ITを知らないけれど、金融機関にいるという方々を想定して書きました。

なぜなら、我々が知らない本当のフロンティアというのは、金融機関の中の人たちが作っていくものだと思うからです。実際、金融の現場には、いろいろな技術を活かすことで改善されるポイントが、たくさんあります。

FinTechはベンチャーを筆頭に、競争相手を次々に作ってゆくでしょう。でもそれらは最終的に、金融システムの中に取り込まれてゆくべきものだと思います。同時に金融は今後、ますます非金融化してゆくものだとも考えています。

例えば、日本交通のタクシーアプリ「日本交通タクシー配車」です。事前にクレジットカード情報を登録しておくと、タクシーを降りるとき、サインなど不要で降りることができます。これが、非金融化してどんどん透明になっていく未来の金融の姿です。

それだけではなく、タクシーアプリにどこからどこまで移動していくらかかったなどの情報が蓄積してゆけば、もっと効率化の余地はないか、定額プランを出せないかといったアイデアも生まれます。

他にも、たとえば米を食べたい人が米を買い、カード決済をします。このとき、金融は実需に対する受け渡し手段となりますよね。ここで、単純に米を売るだけでなく、米の売買にともなう金融情報をもっと活かせないかと考えます。すると、Aさんという人が「あきたこまち」をよく買っているという情報を使うことで、「あきたこまち」が安いという情報が入った時クーポンを発行するというサービスが可能になります。これも非金融化する金融の姿です。今はそういうことまで含めて、FinTechと称しているのです。

金融は究極の虚業などと言われますが、実際は、金融に乗じる形で、実業に派生したさまざまなデータが取引されています。こうしたデータを使いたいと考える実業の人にも、FinTechは関わっているのです。むしろ、FinTech1.0の頃よりもはるかに実業に関わってきていると言えるでしょう。

こうした考えから、ITをしらない、実業に関わるひとにこそ、本書は読む価値があると思っています。

ITを知らない金融機関の人にオススメの本

―― 『FinTech入門』は巻末の参考文献がとても充実しており、また、幅広い分野の本が紹介されていました。たとえば、金融系の書籍のほかに、『仮想通貨』(岡田仁志他著、東洋経済新報社)や、『人工超知能が人類を超える』(台場時生著、日本実業出版社)なども挙げられていて、とても興味深いですね。

仮想通貨は、ユースケースがまだ明確にはなっていませんし、非常に難しいテーマです。仮想通貨やブロックチェーンを取り入れる検討も、多くがまだ実証実験といえる段階のものです。しかし、中長期的には必ず差が出てきます。今後3~5年ほどしたら、圧倒的に違うはずです。

―― 先ほど『FinTech入門』のコアターゲットとして考えているとおっしゃっていた「ITを知らない、金融機関の人」に対して、他のオススメの本はありますか。

ハッカーと画家 コンピュータ時代の創造者たち

ハッカーと画家 コンピュータ時代の創造者たち

著者:ポール グレアム
出版社:オーム社
定価:2,592円

エンジニア向けのよい本は多いのですが、そうでない人が対象ですと難しいですね。あえて挙げるとすると、10年ほど前に流行ったポール・グレアムの『ハッカーと画家 コンピュータ時代の創造者たち』(オーム社)でしょうか。

日本ではハッカーというと犯罪者を想像するでしょうが、悪意を持って行う行為はクラッキングといい、ハッキングにはもともと悪い意味はありません。そうしたハッカーの本来の世界に少し興味がある人が読むにはよい本ですが、やや応用かもしれません。ただ、基本的に、ポール・グレアムはすごくよいです。

Founders at Work 33のスタートアップストーリー

Founders at Work 33のスタートアップストーリー

著者:Jessica Livingston
出版社:アスキー・メディアワークス
定価:3,024円

あと、これも専門的すぎるかもしれませんが、『Founders at Work 33のスタートアップストーリー』(ジェシカ・リビングストン著、アスキー・メディアワークス)は、海外で起業している人たちが読むと、みんな、泣きそうになるような、立ち上げ期のよい感じの話がたくさん書いてあります。これも、ポール・グレアムの立ち上げたY Combinatorの人が監修しています。

HARD THINGS

HARD THINGS

著者:ベン・ホロウィッツ
出版社:日経BP社
定価:1,944円

また、ベンチャー側にいる人向けには、『HARD THINGS 答えがない難問と困難にきみはどう立ち向かうか』(ベン ホロウィッツ著、日経BP社)もよい本でしょう。

金融の本質―21世紀型金融革命の羅針盤

金融の本質―21世紀型金融革命の羅針盤

著者:デュワイト・B.クレイン(他著)
出版社:野村総合研究所
定価:3,024円

金融ということでいえば、ものすごく硬くて眠くなるような本ですが、野村総合研究所が出している『金融の本質―21世紀型金融革命の羅針盤』(デュワイト・B. クレイン他著)は名著です。これを金融好きの人がきちんと読みこむと、必ずシステムに興味が向くはずなんです。名著ですけど、これは、なかなか一般の人には勧められません。なぜなら、睡眠薬みたいな本なので(笑)。

日本の金融サービスはレベルが高すぎる!?日本で「PayPal」が流行らないワケとは

―― 本の中では海外の事例が多く挙げられていました。日本ではまだFinTechの事例が少ないという状況は、ベンチャー的な観点ではチャンスであり、金融業界の目線では、取り組まなければいけない課題がたくさんあるということでしょうか。

日本で事例が少ないのには、2つの観点があります。さきほど、日本では消費者が厳しいという話をしましたが、それは翻ってみると、通常の銀行が提供しているシステムが非常に便利だという側面もあるのです。

一番良い例が、アメリカの「PayPal(ペイパル)」です。世界中で2億アカウントを超える利用者がいますが、日本ではほとんど使われていません。それは、多少、制度的な理由もありますが、日本ではインターネットバンキングが便利だという背景があるからなのです。

たとえば、私がある人にお金を送ろうとした際、15時までにインターネットバンキング上で手続きすれば、おそらく当日中に届くでしょう。同行であれば、手数料も無料でいけるかもしれません。しかし、アメリカやイギリスではそうではありません。

また、海外では日本より、クレジットカード詐欺が多いので、ECサイトで、できるだけクレジットカードを使いたくないのです。詐欺にあうと、自分のクレジットスコア(信用偏差値)が悪くなり、住宅ローン金利が跳ね上がったりもします。そうしたリスクを負わないために、クレジットカード以外の支払い手段がほしいというニーズがあり、「PayPal」での支払いが流行りました。

一方、日本では、クレジットカードの詐欺にあっても、住宅ローン金利が跳ね上がることはそう簡単にはありません。金融機関がある程度リスクを負ってくれているということもあります。

さきほどのインターネットバンキングの手数料も、エクスプレス送金であれば、800円や1000円くらいとってもよいはずなのですが、無料で提供されています。つまり日本では、金融機関ががんばってハイエンドサービスを提供しており、しかも無料で使うことができてしまっているのです。加えてATMのインフラも非常にレベルが高い。

つまり、金融機関および金融ベンダーの提供するサービスのレベルが高かったというのが、ご質問に対する1つの観点です。一方で、事例が少ないということがチャンスだという観点もたしかにあります。 金融機関のサービスレベルはたしかに高いのですが、しかし、モバイル戦略ができているか、個別のUIが分かりやすいか、というと、充分ではありません。

また、預金を簡単に資産運用に投じる術がなかったり、お金を借りるにしても銀行ローンが中心で、ピア・ツー・ピア(P2P)レンディング(インターネットを利用した個人間の融資)のようなオプションは多くありません。消費者としては、選択肢に多様性があったほうがいいので、もっとオプションがあっていいのです。

通常のインフラが100点満点でつくられているため、通常ではないユースケースや、あるいはその次を考えたいといったとき、間口が狭いところがあります。本書では、そこを示したいという思いもありました。

瀧 俊雄

FinTechのような新事業の立ち上げに関わる人へオススメの1冊

―― これからFinTechに参入したい人や、金融業界の人でFinTechを理解したい人たち向けに、オススメの本を教えていただけますか。

リーン・スタートアップ

リーン・スタートアップ

著者:エリック・リース
出版社:日経BP社
定価:1,944円

『FinTech入門』の中で、参考文献の一つに挙げた『リーン・スタートアップ ムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだす』(エリック・リース著 日経BP社)は、最初に勧めたい一冊です。

起業や新規事業づくりを行うときに、失敗を許容する組織をつくることが大切といわれるのですが、一方で、成功は何かというのが定義されていないことが多いのです。これに対し、リーン・スタートアップは、「MVP」(注:Minimum Viable Product、実験を実行するのに最低限必要な製品)を生み出すことに絞っています。この、成功を明確に定義している点が大事です。

また、この本の中では起業の話だけでなく、社内ベンチャーの例も出てくるので、既存の固い組織でも取り入れやすいでしょう。

たとえば、アメリカの会計ソフト企業「Intuit(インチュイット)」の事例がそうです。社内ベンチャーを立ち上げたところ、最初はみんな半信半疑でうまくいきませんでした。しかし、1ついい事例がでてくると、社内ベンチャーづくりが組織化していくのです。こういうところは、改善の得意な日本人の興味を引きそうな話です。

もともとエリック・リースは、トヨタ生産方式に習って、「リーン・スタートアップ」という言葉を作りました。ですから、あらゆる業種の人に対して訴求力が高く、かつ、思いが変わってくる本ではないかと思っています。FinTechというものを、起業であれ社内ベンチャーであれ立ち上げてみる人には、オススメの本です。

人に幸せを届けるというサービス業の本質に迫る上でオススメの1冊

顧客が熱狂するネット靴店 ザッポス伝説―アマゾンを震撼させたサービスはいかに生まれたか

顧客が熱狂するネット靴店 ザッポス伝説―アマゾンを震撼させたサービスはいかに生まれたか

著者:トニー・シェイ
出版社:ダイヤモンド社
定価:1,728円

もう一つ、『FinTech入門』では取り上げませんでしたが、『顧客が熱狂するネット靴店 ザッポス伝説』(トニー・シェイ著、ダイヤモンド社)も、オススメです。

この『ザッポス伝説』というのは、半分はサービス作りの話、残り半分はカスタマーサポートの話です。トニー・シェイCEOはザッポス・ドットコムを興したとき、ネットの世界だけでは差別化するのが非常に難しいと考え、カスタマーサポートでクレイジーなことをやって成功しました。

ネットショップやネットサービスというと、商品をリリースして配送しておしまいというイメージがありますが、実はそうではない。リリースしてからが勝負なのです。そこには、ネットの画面の向こう側にいるお客様を少しでも多く理解しようという発想があります。この本の英語の原題は『Delivering Happiness』といいますが、結局、FinTechも同じなのです。

ファイナンスで「Happy」を届けるなどと言うと、怪しい教団みたいになってしまいそうですね(笑)。しかし、金融もサービス産業であり、サービス業というのは人を幸せにするためのもの。そのために、人間やロボットが介在するものです。お客様がどうやったら笑うのだろうということを軸に、あらんかぎりのことをするというのは、FinTechにおいてもとても重要だと思っています。その意味で、この2冊は、誰にでもお勧めできて、絶対に後悔させない本ですね。

お金を可視化することで人の不安を取り除き、意思決定を促したい

―― 今後、FinTechの流れの中で、マネーフォワードはどのような舵取りをしてゆくのでしょうか。

弊社では、PFM(Personal Financial Management)サービスという自動家計簿と、ERP(Enterprise Resource Planning)と呼ばれる、自動会計ソフトに派生したさまざまなサービスを行っています。

社名がマネーフォワードというのは、もともと、「お金を前へ。人生をもっと前へ。」というテーマを掲げているからなのです。人は生きている中で、さまざまな人生の意思決定をします。そのとき特に、お金に関する要因で、必要以上に我慢をしている部分が絶対あると思っています。

それが、世の中で「不安」と呼ばれているものです。そして不安を不確実性と定義すると、マネーフォワードはその不確実性をリスクに変えることができるサービスだと考えています。お金というのは、不確実にしておくと、人間を必要以上に縛ります。でもこれは、自動化で、いくらでも可視化し、分析することができます。そうすれば、選択肢が明確になり、今、やるべきこともわかってきます。

弊社ではそのために、個人向けであれば家計簿、ビジネス向けであればクラウド会計ソフトを通じて、意思決定を提供していきます。ベースにあるのは、何か変えたほうがよいということに対して、一番よいソリューションを提供したいという思いです。

企業であれば、融資の面で関わる場合、金融機関からの資金調達を支援するMFクラウドファイナンスのようなソリューションベースを提供します。個人で、将来が不安だと感じている方々には、ロボ・アドバイザーで運用を支援します。

資産運用というと、これまでは金融機関の仕事だったかもしれませんが、今はもう少し中立的なソリューションが存在しているはずです。それを提供することで、意思決定を楽にして、安心していただくような仕事をしてゆきたいと考えています。

瀧 俊雄

金融系サービスが次々と立ち上がり、切磋琢磨する世の中になってほしい

―― 御社では企業活動以外に、Fintech研究所を創設しています。また瀧さんは、一般社団法人金融革新同友会「FINOVATORS(フィノベーターズ)」というFinTechのプロ集団のメンバーでもあります。これにはどういう意味があるのでしょう。

Fintech研究所のファンクションには、政策提言をしっかりしてゆくという役割があります。

金融業がなぜ、他業種と区分されているかというと、たとえば銀行が経営に失敗して倒産しそうになったとき、預金者を国が守るためです。ゆえに、リスクを取りづらい。

ただ、20年後の銀行は、少なくとも何らかの進化は遂げているはずです。このとき、制度が、進化を阻害するものであってはいけません。そのために、シンガポールやイギリスのように、制度にある程度の幅を持たせ、リスクを取っていかなければならない状況まで来ていると考えています。

アメリカの場合は、うまくいったものについて、あとから法律を変え、修正を加えていきます。日本でも、新しい産業を振興するためにはそのようなアプローチが必要となっていくでしょう。金融は本来、利用者や社会への影響に対してディフェンス的な政策テーマが多い領域ですが、オフェンス要素を確保していかないと、次の制度が見えなくなるのでは、という提言をしています。

このような提言は、現場感のある人たちが発信するのが一番よいと思います。我々は、多少、大きくなったベンチャーとして、社会貢献させていただくつもりで提言しています。

もう一つの課題は、ベンチャーがまだまだ足りないということです。起業全般にいえることですが、人間は強烈な職業上の矛盾を感じたとき、とてもよい起業をすることが多いと思います。何かを変えたいと思い、それを実現してくれる人に増えてほしいと願っています。

会計ソフトや自動家計簿の分野でも、起業はまだまだ足りません。自動家計簿をやっているのは、マネーフォワードと他数社程度でしょう。本来、もっともっとあってよいはずです。ITベンチャーが集結するシリコンバレーは、日夜、アイデアをそのまま完全にコピーした「コピーロボット」のようなベンチャーがどんどん出てきます。その中で、なんとかマーケティング予算をさき、勝ち抜いていく。それくらいのことが起きなければ、メガベンチャーは生まれません。

金融業で新しいサービスがどんどん生まれ、取捨選別が行われるという環境を促進してゆくためには、もっと起業を促していくしかありません。

フランクに集える場所を通して、新しいものをつくりたいという志をもつ職業人を増やしていきたい

「FINOVATORS(フィノベーターズ)」では、FinTech企業の支援施設「フィノラボ(Finolab)」と連携して、FinTechのスタートアップをサポートしています。

「フィノラボ(Finolab)」のオフィスに集う人たちは、きわめてフランクです。「ここに来れば、毎週木曜日は無料でビールが飲めるよ」ということをやっています。銀行でアイデアを持っている人たちが、すでに起業している人たちを見て、「自分たちでもできそうだ」と思ってもらうことがとても重要なのです。日本人だから起業が不得意なのではありません。外部環境が起業を許しにくいのと、友達に起業をしている人が少ないからだと思うのです。

深夜まで楽しそうにサービス開発している人を見ると、「なんでそんなにがんばれるの?」という気持ちになるでしょう。そういう人たちといると、「やっぱり、仕事ってこういう風に楽しくしたかった」という思いも生じてきます。おそらく、新しいものをつくりたいという気持ちをもった職業人が生まれているはずです。

ベンチャーに興味があるとか、新しいビジネスをやりたいからといって、全くゼロから起業をしなければならないわけではありません。マネーフォワードみたいな会社に、途中から入る方法もある。私は大企業からいきなりベンチャーに入った形ですが、弊社CEOの辻庸介は、マネックスというベンチャーが伸びていく中で、その空気を吸ってきました。そうでなければできない意思決定があると思います。

社員にも、いろいろな業界出身者がいます。大手芸能事務所でミュージシャンをしていた人が、今では弊社のカスタマーサポートのリーダーになったりしています。こういう人は、何かを考えることに長けています。お客様へのサービスから、そのための人材採用まで、全部、考えてくれます。

経験がものをいう部分は、パッションを持った人たちが、きちんと知見が循環し、いずれ彼らが投資家になっていけば、とても厚みのある企業文化ができていくと思うのです。

日本でかつて、起業家が増えたのは、50~60年代でした。何もなかったときは、起業するしかありません。東芝、日立、ソニーなどはこの中から生れ出ました。今もそれと同じだと思っています。結局、何もない部分というのは必ずあるはずです。そんな新しいことをしている会社に入り、いずれは独立して、自分で次なるものを作ってゆく。それが実現してゆけば、日本のFinTechもどんどん面白くなってゆくのではないでしょうか。

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著者紹介

  • 瀧 俊雄

    瀧 俊雄

    FinTech研究所長 / マネーフォワード取締役 株式会社マネーフォワード取締役 FinTech研究所長 2004年、慶應義塾大学経済学部卒業後、野村證券株式会社入社。野村資本市場研究所にて、家計行動、年金制度、金融機関ビジネスモデル等の研究に従事。2011年、スタンフォード大学MBA修了。 2011年より野村ホールディングスCEOオフィスに所属。2012年10月より株式会社マネーフォワードに参加。2015年8月、マネーフォワードFintech研究所長に就任

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